虫歯がひどくなると、歯髄(しずい)に細菌が感染します。冷たいものや熱いものがしみるようになり、やがて何もしなくても激しく痛むようになります。「神経を抜く」といった言い方をしますが、ここまで進行した虫歯は歯髄を取り除く治療を必要とします。歯髄を取り除けば、痛みは治まりますが、歯髄をきれいに取り除いた後の清掃や薬を詰める作業は極めて重要な治療となります。この一連の治療を根管治療(こんかんちりょう)または歯内療法(しないりょうほう)といいます。よくある症例を参考に説明させていただきます。
- 適切な根管治療を行っていない
下の写真をご覧ください。ひどい痛みで来院された患者さんの治療前のレントゲン写真です。簡単に説明しますと、一番上の緑の矢印が、歯髄を除去し薬をつめた箇所。その下の青の矢印が象牙質の歯。一番下の黄色の矢印で白く光っているのが前歯のかぶせ物になります。何が適切でないか、次に説明します。
- 根管治療の質
赤色の矢印の箇所。歯髄と象牙質の歯の境目ですが、黒っぽく映っているところがあります。ここは、空洞があり、薬が均一につめられていなか、または、神経の取り残しがあると思われます。このケースでは、根管治療を施しているものの、大きな問題を残していることになります。
- 根管治療後
治療前のレントゲン(左)と、適切な根管治療を実施した後のレントゲン(右)を並べてみました。右のレントゲンに歯髄腔に薬を詰めた痕が白くはっきりと映っています。まず、薬を詰めた箇所の長さ、太さがはっきりと違うでしょう。根管治療では歯髄をきれいに取り除く作業が大変重要です。また、歯髄がどこまであるか判断するのも大切な事となります。(写真はクリックすると大きく参照できます)
- 根管治療の難しさ
患者からすると少し難しいお話になったと思います。神経をとる治療をされる場合は、丁寧な治療をしないとまた炎症が再発する恐れがあることを理解してください。一般的な治療ではありますが、大変な技術と経験を必要とする治療になります。根管治療はその歯の運命を左右する終末治療であります。下の歯の模型をご覧ください。長く埋もれ、そして先端は細くなっているのが歯根です。2本または3本、根がある歯、複雑に曲がった歯根など歯根形態の複雑さがわかると思います。神経をとる治療は一言で言えば神経をとり、薬を詰め込むだけのことです。しかし、こういった様々な歯の形状の中にある、小さな神経をきれいに取り除き、そして緊密に薬を詰めこむ事が如何に繊細な治療かご理解いただけると思います。
- 根管治療(歯内療法)の重要性
抜髄処置(歯髄、神経を除去)を行う時、どのような気持ちで治療を行うか、歯科医師の気持ちにゆだねられる事であると思います。痛みだけを除くことが仕事ではなく、非常に困難ではありますが、出来れば生涯にわたり治療していない歯と同様に口腔内で機能させることが歯科医師のお役目です。ただ、根管治療を100%完璧に出来るかというと難しいことになります。レントゲンでは表れない根管、根管外からの感染、異物反応など適切な根管治療を施しても炎症がおきる症例もあります。しかしながら、歯科医師が最適な根管治療を施す努力をすることは間違いなく再発の可能性が低くなります。患者の方にも、この治療の重要性をよく認識していただき、残念ながら神経を抜くような状態になっても、生涯にわたり機能する歯を維持できるよう努めていただければと思います。 - 所感
抜髄(神経をとる)根管治療はあたりまえの治療方法ではありますが、一部の不適切な治療の結果、多くの歯の悪化を招き、抜歯にまで至るケースも少なくありません。今回のような症例(感染根管処置)は、当医院でも珍しいケースではありません。歯科医師としての質の低下や、認識のずれが大変大きくなってきていることに苦慮し、そして恥ずかしく感じております。何のための、歯科医師なのかあらためて問い直す必要があると思います。